short pop 「 台 風 前 夜 の 風 景 」 (works and アカルカム)

今まで一ヶ月以上もかけてクラスメイト全員でつくってきたという

ペットボトル数千個を繋ぎ合わせてつくられた巨大なオブジェ。



2週間前にこの地へと転校してきた僕は

これが何を象ったオブジェなのかもわからないまま手伝いを続け

ちょうど昨日、その完成を目にすることが出来たのだった。


「熙君。なんだかよくわからない漢字を書いて、ひろし君。

明日はとうとうお披露目の日よ、クラスのみんなも楽しみにしているわ。

今日の見回りもおねがいね。」


担任の女性教師は、オブジェを見上げる僕に そう言い残し、校庭を後にした。




僕は、放課後から30分ほど周囲の見回りをし、帰路に付いた。




「大型で非常に強い、台風6号は、徐々にその勢力を増し

明日未明には本州南部へと上陸する見込みです。」




自宅へと到着した僕の目に、まずそのニュースが飛び込んだ。



「あらあ、それじゃあ、明日はここら辺りも朝からすごいお天気になりそうねぇ。」



リビングのソファーへと座る母が、僕に気付かずそう漏らしていた。



「ただいま。」


「あら、お帰りなさい。」



帰宅を告げる僕に、母はそう返事をした。




「明日、台風だってね。

鎮も、あなたの学校のお祭り楽しみにしてたみたいで

もう寝ちゃってるんだけど。中止かしら?」



学生服を脱ぐ僕に、母がそう告げる。

ちなみに、鎮(まもる)というのは、僕の幼稚園児の弟だ。





僕は、そのまま食事を終え、風呂へと入り。布団へと潜り込んだ。




徐々に強くなる風の音を感じながら、僕は中々寝付けずにいた。



寝返りを数度うった末、僕は意を決するように布団から飛び出すと、パジャマを脱いで学生服へと着替えた。




時計の針は、深夜の二時を指していた。




自宅の扉を開け、深夜の町へと飛び出し僕は

そのまま真っ先に、あのオブジェのある校庭へと走った。



まだ台風が上陸したとは思えない穏やかな微風に包まれた深夜の校庭。




そのとき、僕の目の前を何者かの小さな人陰が横切った




「鎮!こんな時間に何をしているんだ!それにパルも!」



僕の目の前を横切ったのは、僕の幼稚園児の弟・鎮と

我が家で飼われているミックス犬のパルだった。



僕の言葉がまるで聞こえないかの様に、パルと鎮は僕の後方を睨みつけている。



僕は振り返って、鎮とパルの視線の先を確認にする。




そこには水色のセーラー服に身を包んだ一人の女子高生が立っていた。

そして、その横には巨大なヘビ。アナコンダがとぐろを巻いていた。



「う・・・・」



突如目に飛び込んだアナコンダの姿に、僕は言葉が詰まる。




「真行寺鎮・・・関東の若虎と呼ばれた君が、わざわざこんな所まで来てくれるなんてね。

私と、私のかわいいヴェルファーレに倒される為に!」

セーラー服の女子高生は、片手を腰に当てながら、もう片方の人差し指を鎮へと突きつけ、そう強く言い放った。




「パルとぼくは負けない!動物使いランキング第8位の名にかけて!

ランキング7位・大蛇の真澄!きみをたおす!」



鎮も負けじと人差し指を相手に突きつけ、腰に手を当てながらそう言い放った。





「いや、鎮も・・・、君も・・・。何やってんの?」



両者に挟まれ立ち尽くす僕は、二人に静かにそう尋ねた。



「おにいちゃん。ぼくは動物使いだったのです。そしてパルも・・・」



「使われだったのか!」




僕は、一瞬 照れた様なしぐさを見せたパルを見下ろしながら、そう一声を上げた。




「君、真行寺鎮の兄だか何だか知らないけど、勝負の邪魔をしないで頂戴。」


鎮と対話する僕に、後ろから近づいてきた女子高生がそう声をかけた。

そのすぐ傍らを這うアナコンダを見て、僕は小さく仰け反った。




「いや、君もニュースを見ただろう?

台風が近づいているみたいだし、危ないと思うんだけど・・・。」



「ニュースは見ない!」



そう説明する僕に、女子高生は胸を張ってそう答えた。




「いや、そういうことじゃなくて・・・ だから、台風がね・・・」



「あなたこそ、こんな時間になにやってるのよ。中学生のくせに。」


僕の言葉をさえぎり、女子高生がそう言い返す。




「僕は、このオブジェが台風に飛ばされないようにしようと思ってきたんです。」



「飛ばされない様にって・・・どうやって?」



「えと、とりあえず・・・」



そう言いながら、僕は校庭の体育倉庫へと走った。




「これで括って、この杭に縛りつけるんです。」



僕は、体育倉庫より持ってきた輪っかの付いた鉄製の杭と、数本のロープを差し出してみせた。




「大蛇の真澄さん。とりあえず一時きゅうせんにして、おにいちゃんを手伝いましょう。」



「ええっ・・・なんでよ・・・」



女子高生はそう言ったが、弟もパルも、アナコンダのヴェルファーレもが僕を手伝いだすのを目にし

しぶしぶ一緒に手伝ってくれた。





そして、朝





「台風6号は、突如、軌道を本州から大きく外し、上陸することなく日本の海域を外れ

本日の朝のお天気は、雲ひとつない快晴へと恵まれました。」




台風はこなかった。





「うぁー!なんか、みんなでつくったオブジェがロープとか鎖とかトイレットペーパーでぐるぐる巻きにされてる!!」



その日の朝、校庭のオブジェをまず最初に目にした生徒は、そう驚愕の声を上げたという。





『石原ヨシズミ!!』


僕は、心の中でそう怒号をあげた。