ぼくは、特にほしいものも無いし、したいこともなかったので、毎日 似顔絵でも描いて静かに暮らせればいいと思っていました。
お父さんの誕生日にも、お父さんの似顔絵を描いてプレゼントしてあげました。
「ははっ、ありがとう。でもな、坂敏も、いい加減 こんなくだらないことばかりしていないで、ちゃんと学業に専念しないと駄目だぞ。」
別に特に喜んでもらいたいとも思ってはいませんでしたが、
お父さんはぼくの絵をくだらないと言いました。
「この前のはなんだ、お前は俺の顔に泥を塗るのか。」
担任の先生は、いつもぼくと顔を合わせるたびにそんなことを言います。
「なんのことですか?」と尋ねると、先生は不愉快そうな表情で
「ああ、また始まった。退散、退散。」
と、口を尖らせながら逃げます。
学校の下駄箱を開けると、毎朝 上靴が無くなっています。
「ちきしょう木下の奴!またか!」
ぼくは、吐き捨てるようにそう言うと、木下のクラスに向って裸足で駆け出します。
「木下!上履きをかえせ!」
隣のクラスの木下を尋ね、ぼくは大声でそう怒鳴りました。
「すまん!坂敏!」
木下は土下座しながら謝りました。
「勝手にしろ!」
ぼくは、そう怒鳴りながら教室を後にしました。
ぼくは毎日、下校途中にコンビニエンスストアに立ち寄ることにしています。
買い食いをしたらいけないと言われたことがありますが、ぼくは買い食いが大好きだから、買い食いをします。
コンビニの入り口を抜け、中に入ると、ぼくは目もくれず パンのコーナーへと入ります。
そして、棚に置かれた食パンを勢いよく毟り取るのです。
そのままレジに向い、女子店員に食パンを渡し、そして次に1000円札を渡します。
女子店員は会計をすませると、ぼくにおつりの790円を差し出しました。
おつりを受け取ったぼくは、ギョッとしました。
何故なら、女子店員がぼくに渡した500円玉は、ぴかぴかの500円玉だったのです。
「新しい500円玉ぴかぴか!!」
ぼくは そう叫びながら、コンビニの女子店員に向って、たった今買ったばかりの商品が入ったビニール袋を勢いよく投げつけました。
「なじょすんの!」
両腕で、顔をかばう様にビニール袋を受けた女子店員は、そう叫びました。
実録 キレる10代 完
尚、劇中の坂敏のモデルとなった人物は、現在は街のお花屋さんとして幸せな人生を送っています。