そも わたしとは なんじゃいな
ちとほねとにくとでけいせいされた
げんだいのひとであるのか
こんなことがあった
私の尊父というのは、そもそも所謂ところの侠客と呼ばれる人物だった。ヤクザだ。
そのヤクザな父が、唯一、私に残したものといえば、瑠璃色の日本人形だった。
名を朱御(しゅみ)という日本人形だった。朱色(あかいろ)の和服を着ていた。
黒く長く漆黒い、イカスミのやうな、イカスミスパゲッティーのような、ママーのような色の黒髪を持つ美しい顔立ちの日本人形だった。
「おい、朱御。ゆくぞえ。」
わたしは、朱御にそう声をかけ、玄関をガラリとあけた
勢いよく開け放たれた玄関の引き戸は、そのまま鈍い音を立てて地面へと倒れた。
わたしというにんげんは、玄関が倒れても気にしないような人。いわゆる、お箸の国の人だから、そのまま我が家をあとにし、日本橋の三越へといそぐのだった。
まず、どこから話せばよいのやら。まず、最初にお話した3点はすべて嘘である。ファンタジー?ノンドキュメント?あの、つくりごとだということを明示することば・・・・そうそう、フィクションである。すべてはファンクションであったのだ。
しかし、父がヤクザというところと、朱御という日本人形についての記述は誠であり、にわのまことという厳かな名前を思い返していたが、本来それは私の趣味ではなかった。
そんな折り、首吊り坂の鋏屋の前を通りすぎるわたしに、桂木警部が話しかけてきた
「やあ、ひさしぶりですなぁ、飛田給さん。わたしはひさしぶりですよ。」
桂木警部の端整な顔立ちが心底妬ましく思えたわたしは、着の身着のままその場を後にした。
まさか、後に彼ときょうりょくして、あの、お釈迦様事件を解決に導くこととなるとは、このときには、くしくも思いもしなかった。
ちなみに、わたしのいまのすがたは、身長六尺五寸の日本人形である朱御を抱えながらあるいている訳で、靴は上履きだった。
頭のなかで「ぐるぐるぐるぐるドカーン」という音がした気がしたが、これはマズイな…と悟ったので、気のせいだと思うことにした。ぐるぐるぐるぐるゴッツンツン、ぐるぐるぐるゴッツンツン。
第二幕へつづく