私を見送る、旅館の女将のSWATとプリントされたTシャツが目についた。
おりからの猛吹雪も止み、雲の隙間からは燦燦と太陽の光が降り注いでいる。わたしは、かんじきの紐を両手で結わい、その旅館を後にした。
帝都へともどってきてから、ほぼ数日、私は朱御のご機嫌取りに必死とならざるえなかった。何故なら、先の旅館へは朱御をつれていかなかったのだ。それは、朱御を思ってのことなのだから、さむくて輪ゴムの部分とかが凍ったらかわいそうだからそうしたのだが・・・
予定よりも帰宅が3日ほど遅れたことが、実の所その原因だった。
折りしも、帝都では西仏蘭西傀儡博覧会が開かれていて、わたしは其れへもいかねばならぬ所だったから、いつまでも朱御へと構っていられないというのが本心でも在った
朱御の様子を伺いつつ、傍らに手にした新聞には、怪人白面相、痴漢で逮捕。という見出しが躍っていた。
私は、朱御を腫れ物でも触れるかの様な扱いをしつつ、傍らに携え、西仏蘭西傀儡博覧会の会場で在る、西高円寺の帝都タワーへと足を向けた。
ぐにゃりとした装いの帝都タワーを見上げ、嫌な気分になる。
「やあ、飛田給さん。おひさしぶりです。」
そう言って私にちかづいて来たのは、今回の西仏蘭西傀儡博覧会の開催を決定した、今催しの支配人で在る朝丸真一郎(ちょうまるまいちろう)だった。
「おひさしぶりじゃねぇよ。5000円はやく返せ。」
わたしは、二周りも年上の朝丸にそう言い棄てると、着ていた二重回しを受付に渡し、会場の中へと足を踏み入れた。
会場には、無数の人形が展示されていて、それはどれもまるで生命を持つ人の様だった。「ヒトガタ」という言葉が、フッと頭の中をよぎった。壁と壁の間に、狭い隙間があって、そこの壁の裏から隙間を通して、こお、林檎や蜜柑を投げ、何を放ったのか当てる遊び、あのような、実にあのような感じに
しかし、朱御はどの人形よりも美しかった。
第五幕へとつづく