ああ、昨日のキーワードクイズの答えなんだったけかな?と思い返しながら、背広から滴り落ちるそうめんの汁を振り払う様に、少々急ぎ足で駅へと向かう俺を、横から襷をかけたランナーの格好した爺が競歩のポーズで抜き去っていくわけなんですが、その爺、てめぇ何歳なんだよ?ってこちらが思うほどに、異常にその競歩のスピードが速い。俺の早歩きなんかじゃ、到底追いつけず、別に反則になってもいいやと思って、両腕を振り抜きながら全速力で走ってその爺を追い越して、駅の改札を抜けた頃に、あ、キーワードクイズの答えは「油」だよって思いだせて万々歳。
そんなこんなで、電車で駅を二駅越えて俺の通う仕事場の、水前寺パシフィックビルヂィングっつー間抜けな名前のビルへと到着した訳です。
入り口に二人仲むつまじく並んだ守衛の間を、軽く片手を挙げながら通り抜け、前方に並ぶエレベーターのボタンを押して地下2階へ
資料室・資料室・資料室・資料室・資料室・資料室・資料室・資料室と左右の扉を順番に横切り、その奥に在る零壱番対策室ってプレートの掛かった扉の真横に据え付けられたカードリーダーに身分証明証を通すと、パラリラりんりんラーん♪テッカリッカーン♪という、意味不明に大袈裟で陽気なファンファーレが鳴り出し、ガチャッという音と共に扉のロックが外れる。俺はそのまま扉のドアノブに手を掛け、その扉の先、古臭いデスクが10個も20個も立ち並ぶ だだっ広い仕事場の中へと脚を踏み入れた。
「三枝さん、遅いですよ。」
俺を出迎える東橋は、なにやら片手に書類の様なものを持ちながら、出し抜け俺にそう言った。
「遅いっつったって、電話もらってからここに来るまでは最速のはずだぜ」
と、口をもごもごさせながら言う俺の話を、東橋は既に聞いちゃいない。
「緑地区にシーサーがでたんですよ。」
「シーサー?」
片手に持った書類を指差しながらそう言う東橋に、俺はそう訪ね返す。
「ええ、シーサーです。今回もツガイで現れまして、今の所被害者は10名前後。でも、どんどん数は増えてますね。」
「そうか」
シーサーってなんだっけな?って思いながらも、俺はまるで全て理解してるかの如くそう返事を返すと、椅子から上着を取って外に出て行こうとする東橋の後に続いて、俺も一緒にいそいそとその部屋を後にした。
チャリーン、チャリーン
ハンドルの右側についたベルを親指で鳴らしながら、俺と東橋の漕ぐ二台の自転車は、緑地区って場所を目指しながらその車輪を前方へと進める
自転車を漕ぐ途中、ランナー姿で競歩をする爺をまた見たが、先ほどとは服の色が微妙に違うので別人だろう。
車輪の速度をあげた俺は、競歩する爺の横を抜き去りながら、緑地区へと急いだ。