「呪いの人形か何かは知らんが、そんな気味の悪い人形を繰るのは薦められんな、お前はそもそもひきつけを起こしやすい性質なのだから」
私は梅代を諭すようにそう言ったが、やはり汪斉の主演を棄てるほどの勇気は、今の梅代には無いのだろう。
「そういえば、今度、若鱈さんが御婚約なされたそうだよ。しかし、あの家計は代々ひとごろしだから、奥方を絞め殺したりしなければよいが。」
話を逸らす私の話を聴いているのか聴いていないのか、梅代はジッと朱御の顔を見詰めていた。
この近所にも、以前、鉈(なた)で八人ころしたとのたうっていた乞食がいたが、若鱈さんの祖父などは、そんなものでは無い。
わたしは、若鱈さんの祖父の顔を懐かしげに思い返していた。あの恵比寿様のような笑顔。
「先生、せんせい」
梅代の呼びかけが、わたしを夢のような世界から現実へと引き戻す。
「ううむ、梅代、それで私にどうしてほしいのだ?」
私は、朱御の髪を撫ぜるのをやめ、梅代にそう尋ねた。
「いいえ、先生に特別どうこうしてほしいという気持ちは無いのです。ただ、お話をきいていただきたくて。」
「そうか・・・」
そのまま二人は黙ってしまった。只一人、朱御だけが「わたしは大丈夫ですよ」と言っていた気がした。
第七幕へとつづく