第六幕

「呪いの人形か何かは知らんが、そんな気味の悪い人形を繰るのは薦められんな、お前はそもそもひきつけを起こしやすい性質なのだから」

私は梅代を諭すようにそう言ったが、やはり汪斉の主演を棄てるほどの勇気は、今の梅代には無いのだろう。


「そういえば、今度、若鱈さんが御婚約なされたそうだよ。しかし、あの家計は代々ひとごろしだから、奥方を絞め殺したりしなければよいが。」

話を逸らす私の話を聴いているのか聴いていないのか、梅代はジッと朱御の顔を見詰めていた。


この近所にも、以前、鉈(なた)で八人ころしたとのたうっていた乞食がいたが、若鱈さんの祖父などは、そんなものでは無い。

わたしは、若鱈さんの祖父の顔を懐かしげに思い返していた。あの恵比寿様のような笑顔。


「先生、せんせい」

梅代の呼びかけが、わたしを夢のような世界から現実へと引き戻す。


「ううむ、梅代、それで私にどうしてほしいのだ?」

私は、朱御の髪を撫ぜるのをやめ、梅代にそう尋ねた。



「いいえ、先生に特別どうこうしてほしいという気持ちは無いのです。ただ、お話をきいていただきたくて。」

「そうか・・・」


そのまま二人は黙ってしまった。只一人、朱御だけが「わたしは大丈夫ですよ」と言っていた気がした。



第七幕へとつづく