第七幕

奇妙な夢をみた、朱御の夢だ。朱御と梅代の夢だった。


二人は、我が家の縁側で互いに正座をして座り、庭に咲く彼岸花を静かに眺めていた。


しかし突然、梅代は庭先へとおりたち、彼岸花をむしゃむしゃと食べだしたのである。

梅代は「曼珠沙華には、リコピンがあって身体にいいんですよ。りこぴんぴん。」と、あのころころとした笑顔で朱御に話しかけている。しかし、曼珠沙華にあるのはリコリンで在り、毒である。りこりんりん。



私が訃報を聞いたのは、その日の夕刻のことだった



「やはり、土姫の呪いだったのでしょうか・・・」


私の目の前で、正座姿でちょこんと座る梅代が、そうつぶやいた。


「梅代。彼岸花にあるのはリコリンで、毒だ。」

私のその言葉に、梅代は不思議そうな顔をしていた。それもそうで在る、梅代が彼岸花を食べたのは夢の話であって現実では無い。

しかし、その傍らで朱御が「そうですよね。」と小さく微笑んだ気がした。



犬島汪斉の死因は、まったくもって不可解なものだった。詳しい当時の状況まで、梅代からこと細かく聞いたのだが、やはり別のことを考えながら聞いていた為、ほとんどおぼえていない。


「それにしてもまあ、梅代が無事でなによりだな。犬島汪斉の才能が傀儡劇界から失われたのは少々残念な気もするが。」

わたしは、そうつぶやき、茶を一口すすった。


「でも、犬島汪斉さんは、元々は二人一組の作家さんで、今回なくなられたのは、その片割れさんなんですよ。犬島・おさむ・汪斉さんと、犬島・じょういちろう・汪斉さんで、なくなられたのはJの方です。」


「じゃあ、犯人はOだな。」


私の何の考えも無い言葉に、梅代が少々呆れ気味だったのは言うまでもない。


しかし、実際の所 犯人はOで、特に動機の無い無差別殺人だった。



第八幕へとつづく