第十幕

以前、新聞に小躍りしていた「怪人白面相、痴漢で逮捕。」という記事だが、どうやら白面相が痴漢をおこなっていたのは実の嫁であり、乗っていたバスというのは、白面相が所有しているものということだった。どうやら白面相は、今回も自作自演の凶行に及んだというのだ。

もちろん、これでは白面相を釈放せざるえないわけで、事件を担当する桂木警部は、例の憎らしいほどの端整な顔立ちで「今度こそ白面相の正体が白日の下に晒されると思ったのに・・・。残念ですなぁ。」と言うしかないのである。

ちなみに、白面相の嫁はインド人であった。


それはさておき、今日は、その桂木警部との出会いについて少しお話しよう。


私と桂木警部との出会いは、一昨年の冬のことである。

わたしが、実寸六尺五寸である朱御を、新宿御苑のどこかに置き忘れてきたときのことだった。


まさか私が、朱御をどこかに置きわすれることなどないだろう。と、皆御思いだろうが、まさにその通りである。

それはさておき、私と桂木警部は出逢ったのである。


桂木警部の端整な顔立ちと、その長身を強調する美しい黒色の背広。基本的に爪先立ちということを除けば、男としてまず完璧なのではないだろうか。


その桂木警部は、当時から白面相にはほとほと手を焼いていた。

男が何者かに暴行され、血を流して倒れいるという通報を受け、桂木警部が向かってみると、暴行を受けたのは白面相で、自分でやったという。

これでは事件にならない。自分で自分をいためつけ、尚且つ自分で通報した訳でもない。これでは白面相をしょっぴく理由がないのである。


桂木警部は、その端整な顔立ちで「白面相には煮え湯を飲まされっぱなしですよ。」と、ひとりごちた。



そんなさなか、まだわたしが干される以前に演じていた、傀儡劇で殺人事件がおこったのだ。


被害者は、ガラス製の灰皿で頭部を数回殴打されており、私がこの後に起こす暴行事件と酷似しているのだが、当然のごとく私は殺人犯では無い。

しかし、口論の末とはいえ、わざわざ過去の殺人事件を彷彿とさせるガラス製の灰皿を懐からとりだしてまで、わんわん長老を含める無関係のもの数名を殴ったのは、粋な計らいでもあるとはいえ、少々度が過ぎていた。私は、干されるべくして干されたのである。


第十一幕へとつづく