第十三幕

つまりはこういうことだ

顔を整形し、私の前に現れた藤村孝太郎は、恵利子の夫である藤村孝太郎が殺害された3日前には、術後まもなくであり、整形外科に入院中だったという。

ということは、3日前に殺害された藤村孝太郎の顔を持つ藤村孝太郎は誰だったのだということになるのだが、あれは、会話、仕草からして紛れもなく藤村孝太郎本人で在った。

仮に、ものまね名人が扮装していたとしても、藤村孝太郎は森進一等では無い為、現実的では無い。キャバレーなどを廻れないからである。

死んだ藤村孝太郎本人と、藤村孝太郎を名乗る藤村孝太郎とは別の顔をした男。接点は、互いに三つ子ちゃん。



「…せい、せんせい。」

梅代に呼びかけられていることに気付き、私はフッと我に返った。


「落語、終わっちゃいましたよ。」


私は、上野の鈴本演芸場で、朱御と梅代、三人で、稀代の自称天才落語家、餅肌亭勿論の落語を聴いていた。確か、題は・・・、まあ、実の所、考えごとをして聞いていなかったというのが衝撃のからくりなのだが。とにかく、藤村孝太郎事件解決のときに、桂木警部が記念にと呉れ、ほったらかしにしていたタダ券を梅代が偶々みつけ、今に至る。ちなみに、タダ券は後400枚ほどある。桂木警部め、呉れすぎである。



鈴本演芸場を後にした我々が、空を見上げると、帝都の空は不穏な曇り空だった。夕焼け空でもあった。橙と灰の色が混ざり合うような、解け放れるやうな、混ざりそうで混ざれない粉ジュース。雲が巨大な龍の様なものに見えた気がし、巨大なエバンゲリオンのやうな雲と絡みあっていた。掴みあってはいなかった。髪の毛をひっぱりあっていたのさ。