太陽はすべてお見通しさ

私の同僚の鐘崎陽矢という男は、最低の男である。

「死ぬまでにしたい10のコト」という内容のことが、陽矢のデスクの上のメモ帳に記述されており、内容を確認してみたら、全て下ネタだった。それも、とても口では言えない様な愚劣極まり無い内容を書き殴っており。私が其れを目にしていることに気付くと、「宮崎作品は感動する。」などと、潔の悪いことを言うのである。

それに、私が、合同コンパなどというものを、陽矢の催促で仕方なく主催したときも、自己紹介の段階で、"まりあちゃん"という名前の女性に対し「アンタ、犬みたいな名前だね。」という一声を発し、場の空気を一気に悪いものへと導いた。挙句の果てには、「この女、歯1本も無ぇじゃねえか」などとと言い出す始末で、会計の段になると姿を消していた。

まさか、歯の1本も無い女性をセッティングした私が悪かったのだろうか?とも思ったが、それにしても「この女、歯が1本も無ぇじゃねえか」という言い草は、人道上決して許せることではない。それと、金かえせ。


そんな陽矢が、突然「俺は空間プロデューサーになる。夢空間プロデューサー。」などと言い出し、私は「ああ、そうかよ。じゃあ、会社辞めるんだな。」と返答した。

私たちの仕事は、所謂、業務用のバレーボールマッシーンを営業販売することで、夢空間も劇空間も関係ない。

すなわち、バレーボールマッシーンの営業販売以外の仕事に着くということは、テレビのバラエティ番組で、ベルトコンベアーの上を疾走するダチョウ倶楽部などにバレーボールマッシーンから放たれるバレーボールが命中するさまなどを眺めながら「あれ、うちの会社のバレーボールマッシーンなんだよ。」と意中の女性に言う、唯一至上の楽しみを放棄するということであって、会社を退職するということでも在る。私には到底真似の出来ぬことであった。


それが、何故、そういうことになるのか、まったくもって不明なのだが、次の日、陽矢は私の分も合わせた、二人分の辞表を、私に無断で上司に提出していた。


その事実を耳にした私が、上司に対し即座に「あの辞表は、鐘崎が独断で提出したもので、私の書いたものでは無い。」と抗議すると、「じゃあ、この10個の寿司のうちに1つだけワサビが沢山入った寿司が在るから、それを食べたら無かったことにしてやる。」といわれ、食べてみたら、見事ワサビ寿司を引き当てた。


そんな私に上司は「本当に引いてどうする。」と言い、それっきり。辞表は受理された。