8つ子ちゃんのはなし。

今日は、8つ子ちゃん一家でおなじみの、胃村次晴さん一家についてお話したいと思います。

胃村さん一家は、テレビ朝日系列の2本の特番で、視聴者からの大きな反響を呼び、大晦日には、年越し生放送4時間特番という大役を仰せつかった家族なのです。

しかし、その特番が、他に類を見ない大惨敗。要するに、視聴率米印を奪取してしまってからは、ブラウン管で彼らの勇姿をみることは、もう在りませんでした。

しかし、その2年後。次男、玉次郎ちゃん身代金誘拐事件をキッカケに、再び脚光を・・・


あ、皆さんは、マジシャン薬殺事件というのをご存知ですか?

マジシャンが、差し入れのお弁当を食べて死んだという事件です。



昭和61年

僕が、事件の第一発見者だった。

マジシャンの二階堂陽才氏は、僕が働いている、村の演芸会館に、マジックショーをしに、催しに来ていた訳なんですが、何の因果か死んでました。

口から、ドバーッと緑色の血を吐いた死んでいたので、これは、もう、宇宙人だったんだなと思って、宇宙人だから、あのようなスゲーマジック。所謂、懐から鳩を出す。ステッキが花になる。新聞紙に牛乳を入れてもこぼれないなど。あれは、宇宙の神秘だったんだなと、心から恵心した訳です。

ですが、改めて見てみると、ドバーッ出ていたのは赤い血であって、緑色の血ではありませんでした。ときおり、時節柄、ぼくは幻視をすることがあるので、赤が緑にみえたのは、単なる其れでした。死体を発見する前に、紅い狐と緑の狸などを食するものではありませんね。1食で2色も食ったんだから、こういう幻視をみても仕方ないと、我思います。


そして僕は、慌てながら公衆電話へと走りました。NASA、NASA、NASA、宇宙人が死んでいたんだから、NASA。略してNASAに電話をしなければいけないと思ったのですが、あ、そういえば、血が赤いから、地球人だと思い返し、警察に電話を掛けようと更に思い返しました。人は、はじめて死体を目にすると、こういう慌てふためいた事態になってしまう訳なんです。


それから2時間後。えっほえっほと駆け足でやってきたのは、村に一件しかない警察署の警察署長さんです。ちなみに、この村には警察署はあっても、消防署は在りません。何故なら、皆、火事など起こるわけがないと思っているからです。


「あ、どうも、静耶くん。いやあ、死体だ、死体だっていうからさ、いそいで来たんだけど。なんせ、そういうの馴れてないじゃない。だからさ、遅くなって悪かったね。」

警察署長さんは、僕にそう言いました。後ろにぞろぞろと付いてまわっているのは、おそらく警察署のおまわりさんたちだとは思うのですが、皆、鉢巻にランニング。手には卓球のラケットを持っています。


「いやあ、殺人事件なんて、初めてだよね。この村で、前に在ったのは、覗き。痴漢。覗き。痴漢。覗き。覗き。覗き。痴漢。野菜泥棒。痴漢。だからね。」

などということを、おまわりさんたちは卓球のラケットを振りながら、口々に語っています。


「いや、一応、まだ、殺人事件かどうかは判らないんです。刺されているとか、割られているとかじゃなくて、血が口からドバーッとでてるだけなんで。」

「あ、そうなのかー。じゃあ、単なる食当たりかもしれないな。帰っていいかね?」


「いや、あの、ちゃんと調べてくださいよ。陽才さん、なんか、弁当とか食ってるときに死んじゃったみたいだから、楽屋の畳に、ちくわとか玉子焼きとかが散乱しちゃってますし。」

帰ろうとする署長さんと、ラケットの振り幅が徐々に大きくなるおまわりさんたちを、僕は必死に引き止めます。


「そんなことを言ってもねぇ、静耶くんさ、ご存知のとおり、我が署は、やの明後日にはさ、卓球大会があるんだよ。」

「ええ、たしかに卓球大会も大事だとは思いますが、今は、まだ昼の3時です。こっちにきて、ちゃんと調べてください。」

そう言って僕は、渋る警察署長さんたちを、二階堂陽才さんの死んでいる楽屋まで、無理矢理つれてきました。



「改めて、ご紹介しますと。そこで血を吐いて死んでいるのが、東京からお越しのマジシャン。二階堂陽才さん。45(しじゅうご)歳。とりあえず、マギー一門では無いということは判明しています。なぜなら、名前にマギーがついていないからです。」

僕は、得意になって警察署長さんたちにそう発表をしました。


「それはわかりませんよ。」

しかし、突如どこからか聞こえた、その声に、僕はムッとしながら楽屋の中を見回しました。そして、次の瞬間、おそらくその声の主であろう一人の男性が、卓球の素振りを続けるおまわりさんたちの間を抜け、僕の目の前に姿を現したのです。


「あ、あなたは誰ですか?」

「…おおっ、これは偶然だ! 静耶くん。この人はね、あのゆうめいな、数え歌殺人事件を解決した、探偵の社さんだよ。」


警察署長さんが、僕に向かって、代わりにそう答えてくれました。そして、その有名だという、社探偵も続いて口を開きます。


「マギー一門の多くは、オフィス樹木という事務所に所属しています。通常、このような地方巡業などは、当然、事務所を通して行われますから、出演料から事務所へのマネージメント料を差し引いた金額が、ギャランティーとして、出演者に支払われる訳です。まあ、あくまでこれは、歩合性の給料の場合ですが・・・

しかし、中には、事務所を通さない仕事。所謂、業界ではご法度とされている、直の営業というやつが存在します。この直の営業というものは、芸能事務所の尊厳を揺るがすような悪質な行為とされていますから、この事実が、所属事務所に発覚した場合、最悪、マネージメント契約を打ち切られてしまうといった事態にも陥りかねません。

ということは、マギー一門の人間が、二階堂陽才という偽の芸名をつかって、この演芸会館で営業を行っていた可能性も考えられる訳で、この二階堂陽才というマジシャンが、マギー一門では無いという根拠など、どこにも無いのです。」

社探偵は、僕たちに向かって、そう二階堂陽才マギー一門かもしれない説を華麗に披露したのです。


「となると、二階堂陽才 = マギー司郎。この事件は、マギー司郎毒殺事件という可能性も大いにある訳ですね。」

「ええ、普段のマギー司郎さんが、伊達メガネで付け髭なら、その可能性も大いにあります。それに、マギー瑠美が本当は男性だというのなら、この死体がマギー瑠美さんで在る可能性も大です。」


「ということは、もしかしたら、妹弟子のマギー瑠美さんが、兄弟子のマギー司郎さんを嫉妬の上殺害した、マギー一門殺人事件という可能性だってあるとはいえませんか?」

「そうですね。マギー司郎さんの本名は、野澤司郎。マギー瑠美さんの本名は、金子美智子。兄弟子は、本名の司郎から芸名が由来しているのに、あたしの瑠美ってのはどっから来てんだよ!みたいな理由で殺害した可能性だって、確かに無いとは言えません。」


こうして、僕らの推理は、マギー瑠美による、兄弟子司郎への芸名由来による嫉妬心からの怨恨殺人ということで落ち着いた。