3人の中の一人
震えている。四方に広がり四方を塞ぐ闇の中。梗塞された其処。全部が震動し、鳴動し、止まることが無い。
ハハッと、ついつい笑みを溢したりもするが、すぐさま口を真一文字に結び直し、私は暗闇の中を見つめなおした。
もうあれから何日になるだろう。私はずっとここイル。どうしてイルのだろう。死んだからイルのだろうか。でも死んだ憶えは無い。覚書も見当たらない。食事は採ってない。
ゴメンナサイと小さくつぶやいてから、またハハッと笑みがこぼれた。が、私の謝罪は其れだけではなかった。
私は、屋敷に代々伝わる開かずの間を、何者かがガチャガチャしているところを見てしまった。見つけてしまった。しかし、其れだけでは無い。この私自身もガチャガチャしたことこそが今の私の立場困惑を生み出したことに他ならない。其れは、特別目的が在ってしたコトでは無かった。扉に衝いたガチャガチャした形跡、ガチャガチャ跡をみていたら、途端に私もガチャガチャしたくなった。正確には、ガチャガチャ跡をなぞりたくなったのだ。ですから、私は、あの黒イ影が、其の黒イ影が、居なくなるのを息を荒げ、ハァハァ、息を荒げ、ハァハァ、確認し、それから辺りを数回に亘って見回した後に、開かずの間への扉へとすり足で近づき、扉の鍵を1、2回だけガチャガチャとしただけだった。
でも、その瞬間、私は激しく後悔した。恐怖した。ガチャガチャしだした瞬間、間の中から、闇の中から、何者かの声がきこえたからだ。それはもはや、恐怖が記憶をうわまったが故に、私の記憶からは無い。たぶん相当に恐ろひい声にちがいなかったろう。何故なら、声の記憶は消えども、恐怖の記憶だけは今も私の頭部に頭部側面にこびりついているからである。そして、ハハッとまた笑いが漏れてしまうが、一瞬でその口を両手で塞ぐ。これ以上笑みがこぼれて、その声でその吐息で、私が発見されては困る。これ以上のいやがらせは勘弁してほしい。
何故なら、私がガチャガチャしてからというもの、私に対する屋敷内での風当たりが異様なものとなり、日に日にいやがらせの数が増えた。極めつけは、ハートマークのお弁当である。誰かが、私に、憶えの無いハートマークのお弁当を差し入れてくるのである。それもほぼ毎日で在る。土日祝日以外毎日である。
「笹かまと胡瓜」
私は、ついついそんなことを口走って、また笑い声がこぼれそうになる。今度はもっと大きな笑い声だ、イヒヒとかいいながら足をバタバタ、壁をどんどんするかも知れん。でも我慢できた。それもこれも私がガチャガチャしたせいだからか。
まったくもって迷惑なのは、私は、あの人影が、ガチャガチャせねば、わたしもつられてガチャガチャすることは無かったし、この闇ノ坂にくることも無かった。闇ノ坂という地名は、私が命名したものである。
私は、闇ノ坂では、日下部青洲の詩ばかりを夢想した。そのおかげか作詞作曲も順調で在る。
第3幕へと続く