天狗岩の話(2)
「以前の執事の方とは違いますよね。」
事務所へと現れた、水延京子からの使者・篠原と名乗る男に、私はそう言った。
「ええ、2年前から私がお嬢様の身の回りの世話をさせて戴いております。」
黒い、人鳥の様な礼服に身を包んだ篠原は、表情を変えずにそう答えた。
「えーと、前の世話係って言うんですか?その方は・・・なんて言ったっけ?妙領寺クン?」
「日置さんです。たしか。」
私の問いに、妙領寺が1秒ほどの間を空けて答える。
「そうそう、で、日置さんは今何を?」
「それは、私どもの依頼と関係のあることなんでしょうか?」
執事の篠原は、特別不思議そうな表情もせず、私に向かって淡々と尋ねた。
「いや、まあ、世間話ですよ。」
「死にました。」
私が言い終わるのも待たず、篠原は感情を表に出さずにそう答えた。
「先生っ、依頼の話に移りましょうか?」
妙領寺が、整理しようとしていたであろう帳面を取り崩しながら、気を使う様な素振りで、私たちの会話に割って入る。
「はー、亡くなられたんですか。で、なんで殺されたの?」
其れを無視しながら、半笑いでそう尋ねようとする私に、彼は恐そうな表情で「先生っ」などと言って、また会話に割り入ってこようとするので、私は仕方なく今回の依頼についての話しに移ろうかと思った。
「どうして亡くなられたのかは、私には解りませんが、なんでも酷い死に方は死に方だったらしいですよ。周囲には尿や便が散乱していたらしいです。」
しかし、篠原は構わずに、そう話しを続け、場がとても嫌な雰囲気になった。妙領寺が、まだ私を睨み続けているのを背後から感じた。
第4幕へと続く