片輪屋敷(2)
ガタンゴトンガタンゴトンガタンゴトンガタンゴトン
誰かが私を揺らす
前方の惨状を見つめる私を揺らす
私の後方には、無数の樹木で組み合わされたモザイクの壁が在る。気付けば、この広い空間周囲も同じ様な壁に囲われていて、背中からは巨大な真紅の渦巻きがぐるぐるとぐるぐると、徐々に迫ってきていた。
「先生、先生・・・」
「いや、死体みたのはじめてだからさ。こわい気持ちになっちゃって。」
誰かが私の肩を掴み揺らす。私は目の前の惨状について、実直にそう漏らした。
私の目の前では、見知らぬ男が喉から大量の血を流して死んでいた。正確に表現すると、流し終わってから死んだ様だが。
「・・・死体?誰も死んでませんよ。」
揺れがピタッと止まり、その声の主が妙領寺だという事に気付いた。背中で廻る渦巻きも消え、周囲を取り囲む樹木の壁も既に存在してはいなかった。
其処は、片輪屋敷の一室だった。部屋の中では、誰も死んでおらず、手元からだらだらと血を流す男が「痛い、痛い」と食い縛る歯の隙間から吐息を漏らしながらつぶやいているだけだった。
「これは?」と尋ねる私に、妙領寺が「女性に噛み付かれたらしいです。」と言った。
「またどうして?」
さらにそう尋ねる私の視線の先、私の瞳の中には、床に転がる真紅の飴玉が見えた。中央には星。
「これは飴玉じゃなくて。スーパーボールですね。」
私の視線に気付き、其れに近づいた妙領寺は、その場に屈み込みながら、そう呟いた。
第8幕へと続く