#71.自殺の女王 |
脚本 | リュウ | ||
絵コンテ | 工藤あさり |
ユキ「自殺こえぇぇぇぇ!!!」 わたしはパソコンの液晶ディスプレイから目を、身体をそらしながら、そう小さく叫んだ バサッ そのまま私は布団に仰向けに倒れこみ天上を見つめる 天井には「LAST9」と書きなぐられた白い1枚の紙がぺたりと張られていた。 ユキ「これ、本当に死ねんのかぁ・・・」 私はその紙を視界にぼんやり入れながら、そう けだるそうにつぶやいた。 >> 機動聖戦士メガロガイザードZX >> 第71話「自殺の女王」 この番組は、伊藤園のお〜いお茶の提供でお送りしています。 私の名前はユキ。ハンドルネームです。ラジオネームです。本名です。 私は細々と平凡な毎日を過ごす中、正月を挟んで10日間の休暇をいただきました。 その10日以内に死ぬこと、自殺することが私の願いです。 死ぬ理由につきましては、特別 死ななければいけないほど重大な不幸を突如背負ったから・・・というわけでもなく 長年の地味な積み重ねというか、自分のプライドが自分の人生を許せないだけというか・・・ まあ、性格の不一致です。なにと? とりあえず、そろそろしんどくなってきたぞ・・・っと こう、なんだかパッとしない死の理由などを述べている、いや、述べきれてすらいないことからも察せれる通り 死のう、死にたいと切に願ってはいるものの 死の知識を得ようと辺りを見渡せば、その行為自体の内容の恐さに「こえぇぇぇ」などと狼狽する始末でして 本人は大真面目、本気と書いてマジと読んでいただきたい、結婚を前提にお付き合いしていきたい感じなのですが。 いかんせ、精神がついてこない。 やはり、人間というものは完全に追い詰められないと、自殺などという超必殺技は繰り出せないのでしょう。 「いまよ!レッド!必殺技を繰り出すのよ!」 通常の精神状態では、どうしても死・・・、自死できる気がしません。 死の先に何があるのかはわかりませんが 死ぬことにより、この世からわたしが消えるなら 死んでさえしまえば、この世界における自分のことも、全ては他人事になる。 だから、もう 死ぬということ自体を他人事だと思っている次第なので これから自分が死ぬという現実も、特別気にはしてないというか・・・ 「気にしないよ、私、たとえあなたが真犯人でも気にしないよ。気にしないかんね。パン屋さんでもね。」 まあ、とにかく、死ぬためへの最重要行為。あるいは、デビューへの登竜門。月間デビュー。デビュー先生の作品が読めるのはジャンプだけ。 とにかく、”自殺”という行為が超怖いのです。チョベリバなのです。チョーベリーホワイトキックなのです。ホワイトハウス。エディーマーフィーの・・・ 私が多少知識として得た結果 自殺には苦痛を伴わないものが多いということは理解しましたが、そんなの関係ねぇ・・・ なんか、たぶん見た目とかがこえぇ。 ビジュアル・イン・こえぇ。メイド・イン・こえぇ。ホテル・ニュージャパン。 ユキ「やっぱり雪山か・・・」 LAST8 わたしはそうつぶやきながらパソコンの壁紙に映し出されたその文字を視界から外します。 部屋の天井に紙を貼るのは2日で辞めました。面倒です。 遺書もメッセージも残しません。 いきなり死んでやります。自己完結です。それが私の死の美学です。 「何が死の美学だよ」 無関係な人間に迷惑をかけるつもりもないので、今住んでいるアパートの中で死ぬつもりもありません。 まあ、でも、あの大家も不動産屋もちょっとむかつくところがあったから・・・ ここは一つ、この部屋で陰惨な自殺事件でも起こしてやろうか。 などとも思う瞬間もあるといえばあるのですが・・・。知りません。 というか何もかもが面倒です、こんな茶番はとっとと終われば、これ幸いなのです。 死ぬ理由を誰に理解してもらう必要もないし、もとより生きているという このこと自体に、何の疑問をも持ち合わせてなどいないであろう私の周囲の人間には・・・ いや、理解どころか、私が死んだという事実証明さえ、私のまわりの人間には与える価値すらないでしょう と に か く 「くだらねぇぇぇぇぇんだよぉぉぉぉおうぉららあああぁあああ!!!!」 その怒号と共に、アパートの二階のガラス窓を突き破り、一脚の椅子が道路へと落下する。 と、両手で椅子を掴みはしますが、実際投げることはしません。 前の描写うそ。 ピンポーン ピンポーン 部屋の中にインタホーンが響きます。 事前連絡の無い訪問者には対応しません。いつもの様に無視です。 LAST7 ユキ「やっぱ雪山絶対寒いし。」 かくいう間に、期限まで残り一週間となってしまいました。 あれから死の知識は得ていません。こえぇから。 それにしても、面倒です。 対雪山装備を買い揃えなければいけません。だって、寒すぎたらシャレにならないし。いや、元よりシャレのつもりは無いのですが。 死ぬのと、痛いとか寒いとか熱いとか恐いとか幽霊とかは別物です。まったく別のものです。UFOは実在する。 自分が死ぬということは、知能ある生き物にとっては幸福だと思いますが。 寒いとか痛いとか暑いとか、極端に苦いとか辛いとかは不幸です。 LAST6 猫がいました。 白い子猫です。 私が最初で最後に飼った生き物です。 親が飼っていた犬に殺されました。 遺体は親が庭に埋めしました。 自分の猫なのに 自分は他の人間より優れていると思い込んでいましたが そのことを思い出したときに 結局 自分は、他の人間以下の 最低な人間だということに気付きました そういえば、白い子猫が死んでから わたしの人生も くだらない方向へと 転がっていった気がします まあ、生まれてきたこと以外、全部自分が悪くてこうなったのですが。 あの子猫も 私なんかの近くで あのまま生きているよりは 「誰も殺してくれない」 猫の名前? 教えません。 LAST1 ドガシャーンッ!!! メガロイドガイザードZXの鋼鉄の拳が、私のイシュタムの漆黒のボディへと突き刺さる 私は腕の1つを巧みに操り、メガロイドガイザードZXを後方から爪で斬りつける!! 火花を上げながら体勢を崩すメガロイドガイザードZXを尻目に、私は一旦後方へと飛び退いた 僕「くっそう!グランドデスバルド帝国のわるものめ!まけないぞ!」 背中にイシュタムの腕を突き刺したまま火花をあげるメガロイドガイザードZXのパイロットは私に向かってそう言った LAST5 ユキ「本当に死ねるのか。」 私はコンビニのビニール袋をぶら下げながら歩く夜道の中、もう何十回目になるかもわからないその台詞を またつぶやいた LAST4 ユキ:そうなんですかー 世界征服?ってのも大変なんですね(笑 ダグラマード将軍:そうなんですよ。 何気に検索した”殺し屋”というキーワードで出てきた「殺し屋サトシのホームページ」という個人ページの中にあるチャットへと、私は今入室している そのチャットには「自分は地球を支配しようとする地底の国の者だ」というおかしな先客がひとりだけ居た。 たわいもない会話をしばらく続ける中、私の発言に彼(たぶん男)は、こう返信してきた ユキ:わたしもその計画にまぜてもらおうかな、別に死んでもいいんで(笑 ダグラマード将軍:ほんとですか?ちょうど今、自分の命の危険も顧ない様なひとを捜してたところなんですよ^^ その後、メールアドレスと連絡先を教えて欲しいと言ってきた彼に対し、チャット上でアドレスと携帯電話の番号を教えようとしたのだが、携帯電話は数日前にどこかへ投げ捨てていたことを思い出し、アドレスだけを教え、その場を後にした。 LAST3 メールがきた。 LAST2 ダグラマード将軍「ええ、元々はうちの者が搭乗する筈だったんですけどね。逃げまして。」 ユキ「・・・・・」 奇妙な形の乗り物に乗せられて数時間、私が降り立った どこともわからない場所 日の差さない薄暗い場所 そこには、数100メートルは在ろう巨大な漆黒の人形が、数本のワイヤーで天上から吊り下げられていた。 薄暗い闇の中、私の視界の端を白い子猫が横切った気がした ダグラマード将軍「正直、うちらにも詳細はわからんのですわ。これ。」 ユキ「・・・・・」 ダグラマード将軍「”イシュタム”という機体らしくてね。うちの女王がどっからか見つけてきたらしいのですが・・・。最初にご説明した通り、なんでも、動かすには生体エネルギーが必要でして。 「生体エネルギーねぇ」 で、それ教えたらね、乗る予定の奴が逃げまして。これは、代わりの人間を探さなければいけないぞ・・・というとき、先日のチャットにユキさんが参られましたんで、お誘いしてみた次第です。」 ユキ「・・・・・」 死ぬと決めた一週間前、いや、それより遥か昔からでも 私は今、こんな場所に立っていることを、一瞬でも想像していただろうか この非現実的な現実どころか 正直なところ… 今もまだ、死ぬということさえ想像できないでいる 私の人生には、まるで仕組まれたかのような 前の晩には 欠片の想像もしていなかったようなことが稀に起き 「みんなそうだよ」 そして、今 LAST1 私の目の前には、倒すべき相手がいる ダグラマード将軍「ワッハッハ、メガロイドガイザードZXの諸君たちよ!おまえらも東京も、この恐ろしいロボットでしね!ばか!」 自殺志願者搭乗登場 イシュタム 体長100メートル 体重100トン 攻撃A 防御C はやさS and+α 必殺技:死への蠢き Shi e no Ugomeki ビルの屋上に立つあの男の拡声された声を耳にしながら、私は目の前に立つ巨大なロボットを見つめる 「メガロイドガイザードZX」 ドシーン、ドシーンという音を響かせながら、道路を揺らし、一歩、また一歩と、私の乗るイシュタムはメガロイドガイザードZXへと近づく 搭乗前に在った、高ぶる緊張と興奮はコックピットに座った途端、自然と無くなった むしろ、全てから解放されたような清々しい気分に陥っている バスッ 私は意を決するように、地面を強く蹴り飛ばしながら、メガロイドガイザードZXに向かって大きく跳躍する 大空を舞う私の後方を蠢く、機体より遠隔に切り離された4本の腕を巧みに操りながら 私は、メガロイドガイザードZXの斜向かいへと着地すると同時、敵目掛け4本の腕を同時に振り抜く ズバッ!!! 僕「あー!ダメージだ!」 激しい火花をあげながら、4本の腕は ほぼ同時にメガロイドガイザードZXのボディを十字に切り裂いた 再び腕をこちらへと退避させ、私は左足でメガロイドガイザードZXの肩口辺りを強く蹴りつける 大きくよろめくメガロイドガイザードZX 私が余裕を感じ笑みを浮かべた瞬間、私の視界に巨大な鉄塊が飛び込む ドガシャーンッ!!! メガロイドガイザードZXの鋼鉄の拳が、私のイシュタムの漆黒のボディへと突き刺さる 私は腕の1つを巧みに操り、メガロイドガイザードZXを後方から爪で斬りつける!! 火花を上げながら体勢を崩すメガロイドガイザードZXを尻目に、私は一旦後方へと飛び退いた 僕「くっそう!グランドデスバルド帝国のわるものめ!まけないぞ!」 背中にイシュタムの腕を突き刺したまま火花をあげるメガロイドガイザードZXのパイロットは私に向かってそう言った。 僕「これがー、すげーつよいグレートサンダーブレードソードだー!切っちゃうやー!」 メガロイドガイザードZXは、その掛け声と共に何処からか巨大な剣を抜き放った 揺れる視界の中、迫り来るメガロガイザードZXの姿が見える 私は、蠢く三本の腕を、迫り来るメガロガイザードZX目掛け振りぬこうとした が、次の瞬間、巨大な鉄の刃が私の視界の全面を覆った THE LAST 真っ暗・・・・ 闇・・・・ いや、闇というよりも、只、黒い空間。暗くないけど、全てが黒い空間。 そんな地面も天井も自分の立つ位置さえもつかめない空間の中 白い私がそこにいた 目の前を歩く白い子猫もそこにいた 目の前をゆっくり進む白い子猫の後を、わたしもゆっくりと追う 数十分ほど歩いた後、白い子猫が目の前でフッと立ち止った それから、おそらく数十分、前方を見つめたままじっとしている子猫を抱き上げようと、私は歩み寄り 両手を近づける 子猫は、私の両手をすり抜け、全身をすり抜け 私だけ そのまま真っ黒な地面の下へと落下する まるで、冷たくも熱くもない水中に落下したような、感覚の無い感覚に捉われ 私はどこまでも堕ちていく 頭からゆっくりと地面の下へと落下していく中 上方を見つめると 白い子猫がこちらを見下ろしていた 僕「・・・イドガイザードZXは無敵ですごく強いから負けないのだ!わかったか!グランドデスバルド帝国のあくにんめ!」 私の耳に、劈くような、不快なその拡声された声が響く ユキ「・・・・うるさいよ」 視界に映る、抜けるような青空 身体中が痛い。ギシギシと痛い。魏志倭人伝痛い。もう、よくわからない。 ダグラマード将軍「おのれー、メガロガイザードZXとパイロットの人め!きょうは負けてしまったが、つぎはまけたりしないのでかくごしろ!わっはっは!」 耳に響き続ける巨大な声 僕「日本のみなさんたち、ぼくがつよいので敵のロボットは死にました。だから、安心してごはんとかも食べてください。では、ぼくは去ります。さようならー。ばいばーい。」 その いつまでも突き抜ける青空の下 地面へと崩れ落ち 壊れかけたイシュタムのコックピットに横たわる私を取り囲む数名の人影 西園寺ハヤト「俺の名前は、西園寺ハヤト。日本警察の刑事だ!お前から事情を聞きたいので連行する!わかったな!」 空を見上げたまま微動だにしない私の 唇だけが小さく動く ユキ「…最低。」 最悪。 完 |